< 摘出物分析の試み >
インプラント・データシステム委員会議事録からの抜粋
- 東京女子医大から提供された試料を分析してみた。一つは胸骨ワイヤーの機械的性質を調べるため、市販のステンレス鋼製2種、チタン製1種の引っ張りとねじり試験を行った。ステンレスの方が、引っ張り強度、のび共に大きかった。ねじりでは、チタンの方がステンレスの半分の7回転で破断した。強度的にはステンレスの優位性が明らかである。不都合がないのであればステンレスを使用すべきと考える。一方、摘出されたステンレス鋼製胸骨ワイヤーの表面を観察すると、10年、22年経過のものは、いずれも金属光沢を保ち、綺麗な表面であった。SEM観察においては、10年品に一部に縦ひびがみられるものの曲がり部も問題なく、22年品では腐食孔が観測された。古いステンレス綱(22年品)は品質が悪かったためとも考えられ、現在の製品は20年経っても問題ない可能性がある。22年品の腐食孔も数μ程度の深さであり、実用上は問題ないと考えられる。
(H14.12.24)
- グラフト吻合用コネクタの使用例が国内でもみられるが、欧米では閉塞が観察された文献もある。日本人では小柄で血流が少ない場合は血栓での閉塞が懸念される。手術法が簡略で広範に使用される可能性もあり注意が必要と思われる。冠動脈内に埋め込まれて通常では摘出せずに血液に接しているため承認審査にも慎重な配慮が望まれる。糸に比べると価格も相当高価である。 (H14.12.24)
- 摘出埋植弁の周辺組織分析については久留米大学とも協力して倫理委員会に諮っているところである。動物実験では、異物反応を起こしやすいマウスの系統があるなど、個人差があることを支持するデータが出ている。
(H14.12.24)
- 各グループからの摘出物の分析も開始する。以前から行っているステンレス鋼、チタン合金の整形外科インプラント摘出物については、XPSで分析した。両者で検出された元素は異なるが、同じ材料、接触環境であれば、再現性があることが分かった。チタン合金では、Vは検出されず、タンパク質の吸着傾向が見られた。ステンレスでは、チタン合金よりタンパク吸着量が少なく、また、表面の腐食が示唆された。なお、金属材料の破壊についても研究協力が可能と思われる。
(H14.7.30)
- 冠動脈バイパス術でグラフトの吻合を縫合糸でなくコネクターを用いる例が増えている。日本では遠隔成績がまだ少なく、欧米と比して日本人は小柄なため血液流量の点で懸念され、内膜肥厚の例もあるようだ。また、小児循環器学会で「PTFEグラフトの血漿漏出に対する予防と治療戦略」のセッションが開かれ症例が紹介された。なお、学会でも不具合報告制度が周知されていない状況にあり、報告用紙のWebでの入手方法*1)を工夫する必要もあるのではないか。
(H14.7.30)
- 摘出されたTi-Al-V合金の材料表面の分析、材料周囲の軟組織中の金属の蓄積について研究を行った。摘出試料は破損したものとは限らない。十数例の試料の分析を予定しており、分析にはXPSを用いた。髄内釘、プレートから、それぞれCa,P,O,C、Ti,Al,O,C等を検出した。釘ではCaPO4,タンパク質の吸着が示唆される。材料同士や骨との接触度合いと Tiの溶出に相関が見られた。試料調整法も含めて、分析のガイドラインを検討したい。 (H14.3.22)
- インプラントの追跡調査は生存率を含め、進行中である。摘出人工血管の分析結果もまとめつつある。不具合情報について有用なURLをまとめてみた。人工血管のseromaについて小児循環器学会で症例を集めることになった。
(H14.3.22)
- 摘出された組織については各施設の倫理委員会の承認を経た後に行いたい。人細胞はオリジンが明らかでなく意義が少ないため、まず、動物で異物反応が起こりやすいものと起こりにくいものの比較を行う予定である。(H14.3.22)
- 人工血管の100例の追跡調査を行っている。10年以上の生存が33例、人工血管原因の10年未満例が8例であった。次回頃にまとめられると考えている。摘出血管の分析例では、ニット血管での繊維に沿った異形巨細胞、平織りでの弾性繊維などが観察された。不具合情報収集については国立衛研の検索ロボットを見学した。現状の医薬品だけでなく、医療用具についても対象にできるようになると良い(*1)。また、thin wall stretch type血管でSeromaを形成する例や、ニットの人工血管の拡大についての事例紹介がされた。 (H13.12.3)
- 倫理委員会の承認を経た後に、摘出された組織(心臓弁、ステント周辺)について、組織・血液について分析を行いたい。用具や病態などとの相関を研究する。まずは正常血管内皮細胞を用いて、生体モデルに近い系で、種々の分析をスタートさせる予定である。将来的にテーラーメイド医療用具に繋がる研究を進めたい。(H13.12.3)
- 摘出された金属系インプラント材料表面の分析を目指している。内容は、走査電子顕微鏡による表面観察、X線光電子分光法による生成物の定性・定量分析、電気化学的測定による生成物の安定性の検討、である。これによって、材料と生体環境の反応が解明できる。(H13.8.24)
- 人工血管の105例の追跡調査を行っている。術後経過を評価する上で死因についても調べる必要があり、法務省を初めとして許可を取りながら続けている。18年にわたる累積生存率についても明らかにできたが、カルテの保存期間が5年という制約が追跡を困難にしている。また、摘出された人工血管の分析を行っているが、今回は数施設から、保存されていた人工血管の提供を受けることが出来た。ただ、対照となる人工血管がないなど分析の難しさがある。文献検索においては、用語の統一が非常に重要である。 (H13.8.24)