第2回インプラント・データシステム委員会 議事録
 
日時:  平成13年12月3日(月)、午後2時より5時まで
場所:  KKRホテル東京 11階 梅の間
参加者: 田村、清水、中前、山中、小林、黒澤、冨沢、立石、打田、吉川、北村、澤、
     廣本、酒井
     土屋、松岡、佐藤(事務局)
 
1.事務局からの事務連絡
 東京女子医大の黒澤委員、国立循環器病センターの中谷委員(人工臓器学会レジストリ委員会、急用で欠席)が新たに委員会に加わった。なお、全員が簡単な自己紹介を行った。
 
2.配付資料
 委員名簿、第1回インプラント・データシステム委員会議事録(案)、及び本委員会の規約、についての資料が配布された。
 
3.第1回委員会の議事録について
 前回の議事緑(案)の要約を紹介後、一部の言葉の定義(人工心臓弁→埋植心臓弁)について修正がなされ、了承された。
 
4.インプラント・データシステム委員会規約について
 前回の委員会で提案されたものの一カ所の字句の修正(参考文の、臓器置換→臓器埋植)を施したものが示され、了承された。
 
5.各グループの経過報告(下記のような説明があった)
 
a)ステント委員会
 冠動脈を除く血管系のステントとグラフトの市販品はまだ2種類しかない。現在、パルマッツ・ステントとイリアック・ステントについて調査を行っている。両方で500例位を見込んでいて、一応、第一段階として6ヶ月をフォローする予定である。また、大動脈瘤に対するステントの調査を大動脈ステントグラフト症例検討会の協力を得て、2年前に準じて行う予定である。
 
b)名城大学
 バーコードに対するアンケートへの回答が2割に留まっていたため、直接電話による問い合わせでデータをまとめた。有効回答数は78社(回答率90%)で、回答アイテムは6万弱であった。滅菌パックへのバーコード表示は、商品コード、有効期限、ロット・シリアル番号などが記される方向にある。JANコードについては、特定用具についてはかなりの率で実施済み、実施予定である。バーコードについても同様の傾向がある。眼内レンズや人工血管ではまだ意識が低い。医療材料データベースについては医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)で進められている。現在、7万アイテムの登録があり、今後約
13万アイテムの登録を予想している。その登録状況はバーコードと同様の傾向である。表示は個装ごとの意識が高く、インプラント・データシステムにも活用できるだろう。ユーザー側からも表示要請が望まれる。インプラント自体への2次元表示については業界のガイドラインがないと難しい状況である。
 
c)整形外科学会
 守屋委員が急用で参加できないが、FAXで経過説明を頂いた。今年末までの3年間に渡る摘出インプラント(人工膝・股関節)の状況を10施設に依頼して調査している。内容は、症例のバックグラウンド、摘出理由、摘出インプラントの状況(破損、摩耗、セメント使用の有無、モデル名など)である。
 
d)東京女子医大
 人工血管の100例の追跡調査を行っている。10年以上の生存が33例、人工血管原因の10年未満例が8例であった。次回頃にまとめられると考えている。摘出血管の分析例では、ニット血管での繊維に沿った異形巨細胞、平織りでの弾性繊維などが観察された。不具合情報収集については国立衛研の検索ロボットを見学した。現状の医薬品だけでなく、医療用具についても対象にできるようになると良い(*1)。また、thin wall stretch
type血管でSeromaを形成する例や、ニットの人工血管の拡大についての事例紹介がされた。
 
e)眼内レンズ委員会
 IOLの摘出理由は、IOLの偏倚・脱臼が多く、度数の交換例が増えている。術後の目の視力矯正の意味が大きくなっている現れであろう。手術技術が上がったため、度数が合わなければ入れ直す傾向が出ている。角膜内皮傷害が減っているが、IOLの改善による。眼内炎が増加しているが日帰り手術とは相関していない。摘出IOLの材質の年次推移では、使用材質は8割が軟性レンズになっている。摘出IOLもPMMAが減少傾向で、軟性レンズが増えている。PMMAでは材質の劣化はないが、軟性レンズではグリスニングや表面への組織付着などが観察されている。軟性レンズの回収を積極的に進めたい。
 
f)国立衛研
 倫理委員会の承認を経た後に、摘出された組織(心臓弁、ステント周辺)について、組織・血液について分析を行いたい。用具や病態などとの相関を研究する。まずは正常血管内皮細胞を用いて、生体モデルに近い系で、種々の分析をスタートさせる予定である。将来的にテーラーメイド医療用具に繋がる研究を進めたい。
 
g)埋植心臓弁
 埋植心臓弁データ・システムを確立することと、全国の代表的な5施設で試験的に動かすこと、摘出弁の分析に関する検討について3年計画で行っている。遠隔調査のアンケートを発送して、2月くらいまでに回収を考えている。データシステムの共通部分(最低限の入力項目)を参考に示した。患者を特定できないように生年月に留めた。年齢計算に多少の支障があるが、個人情報保護を優先した。記載情報には国際的な整合性も考慮した。試行の内容を今後にフィードバックして行きたい。
 
h)レジストリ委員会
 人工臓器学会のレジストリ委員会委員長が妙中委員から中谷委員に交代になった。レジストリは今後も継続する予定である。メンバーはかなり入れ替わりがあり、清水・北村両委員が留任となり、心臓外科、人工腎臓関係が多い。今後、眼科、整形外科にも協力をお願いしたい。人工臓器の使用統計が主ということで当委員会と直接的な関わりがない面もあるが、協力して行きたい。
 
6.今年度研究計画
 今年度は、国立衛研での仕事を含めて、埋植心臓弁、眼内レンズ委員会、東京女子医大、物質・材料研究機構の各グループに配分することになった。
 
7.次回の委員会
 次回の日程については、後ほどメールで、問い合わせをする(*2)。
 
8.話題に上った事柄(順不同)
[用具表示関連]
○ユーザー側(複数の医療機関)でも用具の調達にバーコード表示・データベース登録を 必須とする動きもある。
○人工関節類はアイテム数が多いためか、バーコード表示がやや遅れている。
○眼内レンズはむしろコード化は進んでいるものの、現在、他のコードを使用している ため変換に苦慮していると思われる。歯科材料も同様である。ユーザー側からのプッ シュが望ましい。
○欧米からのバーコードもEAN-128であれば、そのまま使える。ラベルの張り替えではミ スが起こる可能性もあるため、共通化が望ましい。
○人工弁のようにシリアルで管理すればロット管理は必要ないこともある。逆にロット しかない場合がインプラントの場合は問題になる。スクリュー、液体物などはシリア ル管理が難しいだろう。
○シリアル番号とロット番号との対応も必要となる。メーカーでの管理が必須である。 不具合が起こったときにもロットごとの対応で済む場合もあり得るわけでメーカーに とってもメリットになる。
○対応があればシリアルのみで基本的に良いはずである。しかし、企業の倒産もあり得 るため、できるだけ両方が望ましい。
○業界のガイドラインは強制力がないので、厚生労働省からの規制も必要ではないか。
○バーコード情報を入れるスペースには限りがあるため、多くの情報を入れようとする と2行や2次元が必要になる。
○ロットといっても、製造過程、滅菌過程など種々の工程が考えられる。
○当初のコード表示は経済課から始まっており、ロット管理が重要であったが、インプ ラントの場合はさらにシリアルが必要となり、別の意味でのコード表示が求められる。
 学会等で統一見解を出してゆくことが肝要ではないか。
○ラベルの張り替えは製造行為に当たると考えられるので、輸入販売の場合はこの面で の解決が必要になる。
 
[不具合報告関連]
○不具合報告の報告書式は誰でもダウンロードできるようになっている(*3)。
○報告しても報告者へのフィードバックが無いように感ずる。
○個々の不具合情報は医薬品での場合と異なり、まだ検索できるようにはなっていない が、安全性情報のかたちで、まとめて厚生労働省のWebページで公開されている。医薬 品では、個々の医薬品でなく、一般名に置き換えて検索することが可能だが、医療用 具では難しいため、今後の問題であろう。
○厚生労働省に直接報告することは、責務とは言え、医療機関にとっては報告が難しい 事情はいろいろあるようだ。個々の事例が誰でもアップ・参照できるようなシステム が必要ではないか。報告のインセンティブがないと広まってゆかない。
○報告内容の信頼性についても考慮することが必要になるかもしれないが、フィードバ ックを含めて報告しやすい体制作りは重要であろう。
○学会や文献報告で、不具合事例があり、他に代替物があれば、次第に淘汰されてゆく と思う。それでも使われるのであれば、それでなくてはならないメリットがあると思 われる。
○厚生労働省への報告があれば、各企業に対しても調査を行うことになるので、できる だけ報告を挙げて頂きたい。
 
[眼内レンズ関連]
○IOLは技術の進歩で、従来では適用例でなかった例にも適用するようになってきた。
○摘出レンズを年間、100例も集めているのは世界でも日本だけだと思われる。
○無菌状態でのIOL手術は不可能だが、眼内炎にまで発展する例は非常に少ない。
○IOLの滅菌にEOGが使われた当初は、残留EOGによって炎症が起こる例があったが、現在 はEOGの除去を徹底しているので問題はない。
○軟性レンズが隆盛だが、角膜移植の場合など、PMMAレンズの方が良い場合もある。
 
[摘出物関連]
○IOLのグリスニングについては体外に出すと消失することもあり、ハイドロゲルなどに ついても摘出材料の分析法には難しい面がある。
○インプラントの所有権、患者へのインフォームド・コンセントを十分に議論しておく 必要があろう。
○摘出物は病院で保管しているのが通例である。稀に会社に分析を依頼している例もあ る。
○世界的にも所有権については考えが纏まっていないのが現状である。最終的には患者 さんのためになることであるが、厳密には目的外治療になる場合も考えられるので、 患者さんへのインフォームド・コンセントが非常に大切であろう。
 
[レジストリ関連]
○レジストリに関しては、実使用数、使用頻度の情報も重要であるため、今後も協力し てゆけると良い。
○人工臓器学会は貴重な人材の宝庫である。例えば人工血管の埋植心臓弁のようなシス テム作りなどができたらよいのではないか。
○個別の医師の善し悪しの印象を超えて、何か不具合が起こったときに全国にアラーム ができるようなものになると良い。
○人工弁のモデルによる差異などもわかると良い。
○当システムにも有用なレジストリになるようにアイデアを盛り込んでゆくべきである。
○個別モデルとの相関がわかる程度まで踏み込んだものが必要ではないか。
○しかし、アンケートで詳細に渡るものを要求すると回収率が悪くなり、汎用性に欠け てしまうこともあり得る。
 
[埋植弁登録関連]
○JANやEANコードを記入するとモデルを特定するのに非常に有用なので、採用を検討さ れたらよい。
○しかし、全てのメーカーでコードが採用されているかどうかは不明であり、生体弁な どは無い可能性が高い。
○疾患とか合併症については、MEDISの方で、電子カルテの関係で全ての標準マスターを 自由にダウンロード(http://www.medis.or.jp/)できるようになった。病名、処置コー ド、医療材料などがコード化されている。これらを併用すると後の処理が楽になるの ではないか。今までは有償であったが、厚生労働省の指導で無料化された。
○これらが国際的なものと一致するのであれば有用に思える。
○ICD10では不十分なので、Mortalityを出すことを目的として患者の術後のデータを欧 米と協力して集め始めている。単に不具合率だけではなくリスク分析が必要となる。 米国では、大人のデータ、子供のデータも動き出している。日本でも始めているが、 バーコードと整合していれば、国際的にも便利である。
 
[委員会関連]
○他の学会のものは、全国をカバーしようという努力がされていて、幅広くやることを 目指していると思うが、当委員会では、問題があれば集中的にやるというのが効率は よいと思われる。始めた上で数年先に問題が出てくるようなものがあれば重点的に進 むというやり方が良いのではないか。
○インプラント全てをカバーするのは膨大すぎるので、やるとしても施設を限ることに なろう。平均的な問題点を明らかにして医療機関への資料にするのが目的の一つにな るのではないか。
○当委員会は、一部領域に留まらず、医療全般に渡っている。そういう点を生かせると 良い。
○それぞれの領域で最も重要な急ぐべき点をやっているのが現状である。
○各分野で問題になっていることを取り上げて、インセンティブを持ってやってゆくこ とが重要と思われる。
 
 
 (*1)注:現在、国立衛研化学物質情報部の好意により「医薬品(医療用具)情報複合検索コーナ     ー(http://www.nihs.go.jp/dig/searchengine.html)」として可能になっている。
 
 (*2)注:3月22日に行うこととなった。
 
 (*3)注:医師、歯科医師及び薬剤師を対象として、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構     (医薬品機構)の医薬品情報提供ホームページ(http://www.pharmasys.gr.jp/)の
     /info/houkoku.htmlでダウンロード可能。