第5回インプラント・データシステム委員会 議事録
 
日時:  平成14年12月24日(火)、午後2時〜5時
場所:  KKRホテル東京 11階 松の間
参加者: 中前、山中、打田、守屋、冨沢、澤、北村、塙、酒井
     土屋、松岡、佐藤(事務局)
 
1.事務連絡
 厚生労働省医薬局安全対策課の井本委員の後任として、西山委員をお願いした。今回は急用で欠席である。
 前回、今後の計画について議論を行った後、事務局から各グループに要望書をお願いした。基本的に要望に添うようになったが、多少、縮小したところもある。後ほど、事務書類の提出をお願いする。
 なお、予算内示があり、「摘出埋植医療用具の適合性解析法研究費」が、「先端的医療用具及び埋植医療用具のリスク評価・管理手法の構築・標準化に関する研究費」に振り返られ、全体としてもわずかに減額となった。当インプラント・データシステムの継続が認められたことは喜ばしいが、引き続き財政努力が必要である。委員旅費が減額になったため、来年度以降は委員会開催を年に2回にする可能性が高い。
 
2.配付資料
 第4回インプラント・データシステム委員会議事録(案)、インプラント・データシステム委員会ホームページ表紙(案)、FDAの通知(FDA Public Health Notification: Diathermy
Interactions with Implanted Leads and Implanted Systems with Leads)、ISO PDTR 14283:
Implants for surgery - Fundamental principles(素案)、が配布された。
 FDAの通知は、Leadを使用されている患者にはジアテルミー治療は避けるべきだという勧告である。なお、通知の最後に、FDAからの通知をメールで受け取る方法が書かれている。ISO文書は5年後見直し作業が始まっているもので、インプラント用具の基本原理に関するものである。各国の法令等にどの程度取り入れられているかなどの調査を行った上で、改訂作業に移ることになる。日本の現状については厚生労働省・審査センターの意見を聞きながら、佐藤がとりまとめることになっている。
 
3.第3回委員会の議事録について
 前回の議事緑(案)の要約を紹介後、了承された。なお、前回、紹介した整形外科インプラントの不具合調査の手法で、眼内レンズの「glistening」について調べたところ、
17例が見つかり同一材料製品であることが分かった。原因は中前委員等によって解明済みである。
 
4.各グループの経過報告(下記のような説明があった)
 
a)眼内レンズ委員会
 「眼内レンズインプラントデータシステム委員会」は、日本眼内レンズ屈折手術学会内の常設委員会(委員長:山中委員)として活動している。現在、摘出された眼内レンズの免疫染色等による組織分析、グリスニングの原因追及を含めた物理化学的分析、眼内でのレンズの変形分析、小児埋植症例の調査、現在禁忌とされている症例の見直し検討、などを行っている。一番重要なのは摘出レンズの回収であり、昨年1年間で108例のレンズを回収できた。現状では、7割以上がfoldableレンズ使用となっているが、これらの耐久性等はまだ未知の部分もある。その意味でもfoldableレンズを回収したいと考えている。その数は徐々に増えつつあり、PMMAレンズと対比しながら適合性を検討してゆく。摘出原因は偏倚・脱臼、パワー変更、硝子体手術が多く、感染・眼内炎によるものもある。HEMAレンズによる混濁例もあった。今後は、上記の分析以外にも、塙委員と協力して表面分析も進めてゆきたい。
 
b)整形外科学会
 インプラント委員会では、人工関節の摘出理由について調査中であり、200例が目標だが現在までに178例集まった。手術手技の問題を避けるため大病院だけ5施設の事例を集めている。人工骨頭が28例、内女性20例で、これらの摘出理由の殆どは骨粗鬆症による
aseptic looseningであった。股関節が131例と多く、その殆どが小児時の先天性疾患のため成人になって2次性関節症になった例である。内108例が女性で、平均年齢は51歳であった。若く活動性があるため、PEが摩耗するか、ルーズニングを起こす。内93例は
aseptic looseningであり、PEの摩耗片が引き金となるphagocyteの活動などによって骨融解を起こしていた。膝関節は19例しか集まっておらず、数が少ないため最近の例も入れて集計している。膝関節置換は、変形性膝関節症かリウマチが原因であり、今回の平均年齢は64歳であった。高齢のため再手術をする例も少ない。しかし、19例中、11例でインプラントの破損が起こっており、用具の不具合である可能性もある。さらに症例を集めて検討している。
 
c)埋植心臓弁
 埋植心臓弁のデータベースは3年計画で準備を進めて半ばにきた。患者アンケート調査の回収率が90%を超えたのは5施設中、1施設(98.8%で、以前からの継続調査努力による、他は初めての調査)だけであり、次回のアンケートに向けて、項目の見直し、電話連絡などを併用することにした。過去10年間のデータを収集する予定であったが、数年分に縮小して回収率を上げると共に、経費を節約して専任者をおく方向でゆく。データシステムについては、内容的には英国より詳しいものとなるが、国際的にも95%を超えるデータを求められるため、それを達成できるように、種々の方法を模索したい。摘出代用弁の評価については、倫理委員会レベルで時間がかかっている。摘出物の輸送方法、患者さんの家族の同意についても重要な課題である。人工弁での問題は、埋め込み後、10年以上も後に起こるパンヌスである。起こる確率は非常に少ないが、個人差もあると予想され、これらを解決する研究となることが期待される。
 
d)物質・材料研究機構
 冨沢委員から提供された試料を分析してみた。一つは胸骨ワイヤーの機械的性質を調べるため、市販のステンレス鋼製2種、チタン製1種の引っ張りとねじり試験を行った。ステンレスの方が、引っ張り強度、のび共に大きかった。ねじりでは、チタンの方がステンレスの半分の7回転で破断した。強度的にはステンレスの優位性が明らかである。不都合がないのであればステンレスを使用すべきと考える。一方、摘出されたステンレス鋼製胸骨ワイヤーの表面を観察すると、10年、22年経過のものは、いずれも金属光沢を保ち、綺麗な表面であった。SEM観察においては、10年品に一部に縦ひびがみられるものの曲がり部も問題なく、22年品では腐食孔が観測された。古いステンレス綱(22年品)は品質が悪かったためとも考えられ、現在の製品は20年経っても問題ない可能性がある。22年品の腐食孔も数μ程度の深さであり、実用上は問題ないと考えられる。
 
e)東京女子医大
 グラフト吻合用コネクタの使用例が国内でもみられるが、欧米では閉塞が観察された文献もある。日本人では小柄で血流が少ない場合は血栓での閉塞が懸念される。手術法が簡略で広範に使用される可能性もあり注意が必要と思われる。冠動脈内に埋め込まれて通常では摘出せずに血液に接しているため承認審査にも慎重な配慮が望まれる。糸に比べると価格も相当高価である。
 
f)名城大学
 医療材料データベースへの登録では、今年の7月に日医機協がインプラント製品については商品コードとシリアル番号を付記するようにガイドを出した。これを受けて、メーカーでも努力中だが、整形外科関連では商品数が多いためか積極的とはいえない。他の用具では8割近くに及んでいる。コードの付加状況をみると、4月は用具全体で140社であったのが現在は269社になっている。品目数も7万5千から16万4千に増えている。薬事法改正で元売り業者が記録を保存することになることから業界での必要性も高く拍車がかかりつつある。生物由来材料の記録保存、データベースの変更などの説明会への関心も高い。国立大学病院の材料部でも標準化の必要性が議論されている。医療情報分野でも情報の標準化が話題になっており、標準化でコンピュータシステムの無駄な部分も見えてくるであろう。来年の1月から添付文書がメーカーの責任で配布されることになり、医療機関での正しい利用が期待されているが、添付文書に沿わない場合は不適性使用という認識も出てくるであろう。
 
g)ステント委員会
 ステント研究会、及び大動脈ステントグラフト症例検討会の両要旨集が完成したので希望者には配布したい。末梢血管ステントの調査では、一方が、67施設226例、他方が76例の症例が集まってきている。内容についての検討を行いつつあるが、末梢血管については大きな問題は起こっていない模様である。ステントグラフトでは手術手技の保険点数は認められたが、全て手作りで市販のものはまだない。ステント自身の材料と構造、グラフト自身の材料も種々雑多の状況である。重篤な合併症もあり実態を把握する必要がある。現在、治験が行われているが、手術なしのステントグラフト挿入(放射線科)、手術と併用(血管外科)、の二つのやり方があり、材質的には共通である。現開発品でも良い成績を残せなかったものもあり、長期でみると予想しなかった不具合が起こる可能性もある。
 
h)国立衛研
 摘出埋植弁の周辺組織分析については久留米大学とも協力して倫理委員会に諮っているところである。動物実験では、異物反応を起こしやすいマウスの系統があるなど、個人差があることを支持するデータが出ている。
 
5.次回の委員会
 次回は3月18日に行うこととなった。場所は今回とほぼ同じところになる予定である。次々会は7月頃を予定している。今回同様、次回の前に日程調整を図りたい。
6.話題に上った事柄(順不同)
 
「眼内レンズ」
 毎年、回収数は百例を超える程度であるが、これだけ努力をしても増加してゆかないことを考えると、摘出物の回収は難しいものがあると感じられる。しかし、年間90万例の埋め込みがあるが、大部分は問題がないため摘出数そのものが少ないことも原因である。HEMAレンズの混濁は、レンズ上に細胞が重層して起こる場合があり、PMMAではそのような現象はみられない。細胞接着における短期と長期の相関性は、単純ではないように思われる。
 
[人工関節のポリエチレン]
 膝関節での破損は、PEの劣化(層状剥離、破損)が殆どである。以前のPEは押し出し成形したものを切って使っていたが、最近は鋳型への熱圧縮加工に変わった。摘出物や長期保存品を調べて判明したことだが、押し出し成形では空気が混入してPEの融合が不十分になってしまい、速いものは、特定のロットで3年ぐらいで破損していた。最近のPEは完璧とはいえないものの、かなり質が良くなっている。放射線照射や抗酸化剤混合などによる改良努力もなされている。ガンマ線照射では良い成績は得られなかった例もある。
 
[用具の価格]
 整形外科インプラントは輸入品の割合が多く、日本人の体格に適した国産品の開発も必要である。輸入品は外国の市価より高価であるが、国産品は安価に製造することができても使用数が少ないため、結果的に輸入品と同等の価格になってしまい、医療経済的には効果が現れていないのが現状である。眼内レンズでは、国産品開発を進めたため、輸入品の価格も高価にはならなかった経緯がある。人工関節では、MOSS協議で海外品の輸入価格が決められてしまったため、国産品もそれに引きずられた様である。
 
[品質管理]
 製造時の温度コントロール、落雷による誤作動、などによって、不具合品が生ずる場合もある。注意深い品質管理が望まれる。
 
[埋植弁]
 パンヌスの発生比率は、2500例の内、5〜6例であった。血栓で動かなくなる例もある。一生有効な生体弁や抗血栓剤の不要な機械弁が出来れば良いが難しい。機械弁でのパンヌスは無くなったと思われていたが、現在でも20年以上の例でみられることがある。欧米人は体質的に血栓が出来ることが多く、機械弁が合わず生体弁の需要が多い。弁置換そのものは高齢でも可能だが、活動性が向上するメリットと手術負荷との兼ね合いになる。最近は石灰化弁の置換など平均年齢も高くなった。どの施設でも、僧帽弁は女性に多く、大動脈弁は男性が多い傾向にある。
 
[チタンとステンレス]
 胸骨ワイヤーではチタン製は高価でステンレス製の10倍もする。胸骨ワイヤーにおいては、ステンレスでもMRIで特に問題になっているようではない。アレルギーの問題があったとしても胸骨癒合の後に摘出するのは容易で負担も少ないと思われる。Niフリーのステンレスも開発されつつある。ステントはステンレスかNi-Tiが主である。ステントではMRI診断で影響が出る場合もあり得るが、ステントが移動するようなことはない。Ti胸骨ワイヤーでは締めている最中にねじ切れる場合もある。最近は動きに耐えるために、何本も使う場合が多く、またしっかりと締め付けてもいるため、切れる可能性が高くなるのかもしれない。整形外科では血流の妨げにもなるのでワイヤーを汎用してはいないが、金属アレルギー患者の場合、チタン製インプラントを選ぶ場合もある。チタン合金では弾性不足で緩みの懸念もある。
 
グラフト吻合用コネクタ
 素材は形状記憶合金が多いようだ。米国では510Kで承認されている。これがないと救えない患者さんもおられるので存在価値は十分にある。勿論、使い方と適用は十分注意する必要があるが、高価で容易には使えない状況もあり、特別な場合に限られてしまうのが現状と思われる。使用には豚の大動脈などを使ったメーカーでの研修が必要となっている。
 
[添付文書]
 添付文書の配布は医家向け用具全てに適用される。なお、適用外で使用する場合は、患者さんへの十分なインフォームド・コンセントと医師の自己責任が必要となる。添付文書の電子化は、メーカーでは作業を進めているが、規格等はまだである。折角電子化しても読まれなければ意味はない。SGMLのような、細かい応用が可能な形式が望ましい。各機関での簡易マニュアルが作成可能なような形態も有用だが、メーカーとしては適正使用上、好ましくないと考えている。将来的には医療材料データベースとリンクして医療機器データベースに統合される可能性もある。
 
[ハイリスク用具]
 緊急手術では、例えば治療しなければ200名死亡となるところを30名助けることが出来れば素晴らしい治療といえるため、重篤な症状であったか否かも評価の上では大切な情報である。リスクの伴う用具においては、使用条件・範囲などのガイドもあると良い。以前は80歳以上や重傷者では手術が難しかったが、最近はいろいろの用具が現れて、そのような患者さんにも試みる手段がでてきた。病院経営上はハイリスク用具は受け入れにくい事情があるが、患者さんを救うことを第一義とすれば、ハイリスクであっても使うことになる。米国で病院評価ガイドが出来た当初は、評価を良くするために危ない手術は避けられる傾向があったが、緊急・ハイリスク患者を受け入れる病院はその部分を加味して評価されるようになってきている。ハイリスク用具はそれでなくてはならない場合に使用していることも考えるべきである。
 
[不具合と使用数]
 不具合例を集めるだけでなく、どのくらいの症例に使用しているかを調べる必要がある。また、単純な不具合率だけでなく、その用具で助かったという事例も重要である。成功例は学会では報告されるが、惜しくも救うことが出来なかった例は報告されないため情報が少なくなる。母数がいくつかは是非とも入手したい情報であるが、整形外科学会での認定病院へのアンケート調査では回収率はいつも3割程度である。胸部外科学会ではアンケートに答えないと認定取り消しになることもあり回答率がよい。業者からの正確な数字が得られると良いが、新薬事法では、生物由来用具・ハイリスク用具については、業者が販売先を記録保存すべきとなっているので使用数を把握しやすくなるかもしれない。現在でも出荷数、出荷額については経済課に報告が集まる体制になっており、出荷額については月報として冊子でも販売されているが、数については公開されていない。使用数は不具合評価にとって非常に重要な因子であり、不具合だけでなく成功例も含めて収集する必要がある。適用病態の把握も大切である。不具合数だけで判断するべきではなく、不具合事象は、用具自身、手術手技、病態が絡み合って起こることに留意する必要がある。