2005-12-12
東レ(株)上野紘機
ISO/TC194/WG4(医療機器GCPの国際調和のためのワーキング・グループ)
会議報告について(速報版)
1.背景
2003年2月にISO14155(医療機器の臨床試験基準)が成立したが、各国のGCPやICHとの相違点があり、米国・日本などでは実際には使われていない(欧州では基準化されている)。ISO14155の更なる国際調和を進めるため、本年2月にベルリンで第1回のWG会合があり、7月のユトレヒト総会での第2回会合を経て、今回第3回目が開催された。なお、第1回会合で5つのサブ・グループが設置され、具体的な改訂作業はサブ・グループを通じて行われてきている。
2.会議
- (1)日時:2005年12月7日 9:00 〜 12月8日 16:30
- (2)場所:ベルリンDIN(ドイツ標準化協会)
- (3)出席者:
- 欧州(ドイツ、フランス、イギリス、スウェーデン、デンマーク、オランダ、ベルギー、スイスの規制当局と民間代表)
- 米国(FDA、民間2名)
- 日本(PMDA古田専門調査員、民間:上野)
3.概要
(1) 各国から膨大な改定案とコメントが事前に出されていたが、効率的な会議を運営するために、@治験依頼者・治験責任医師・モニター等の責務(responsibilities)、A用語の定義(definition)と治験の実施(study conduct)の2つに焦点をしぼって論議された。@はサブ・グループ3(リーダー:スイス代表)、Aはサブ・グループ4(リーダー:ベルギー代表)で事前検討されたものである。
なお、サブ・グループ2が担当した「倫理」については、ICHに調和させた上でAnnex Dに規定することになった。またサブ・グループ5「ISO14155のPart
1とPart 2の統合」については、Part 2の主要部分をAnnex Bとすることで決着。但し、これに関連してAnnex AのLiterature
review部分を見直すべきとの強い意見が欧州側から出ている。
(2)主な論議点は次の通り。
- @治験依頼者・治験責任医師・モニター等の責務(responsibilities)
-
- 治験の流れ(治験の準備(setup)、実施管理、ドキュメント管理、治験機器管理、総括報告書、等)に沿って、治験依頼者(sponsor)、治験医師(clinical
investigator)、モニター等の責務をより明確に整理すること。現行のISOは、その点わかりにくい。
- ICHに近づけうるものは極力近づける。但し、各国の法規制上それが出来ない部分もある。また、医療機器の特殊性を主張する意見も出された。
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- A用語の定義(definition)と治験の実施(study conduct)
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- 安全性に関連した用語の定義を明確にすること。今までISO、ICH、欧州指令、FDA/IDE、日本の各種法令(薬事法、医薬品GCP、医療機器GCP)間のそれぞれの定義について、サブ・グループで調査してきたので、この調査をベースに極力すべて共通する定義を用いることになった。
- 治験実施(study conduct)においては、治験機器管理、ドキュメント・コントロール、安全性情報の報告手順・期限などが議論になり、さらに条文を整理することになった。
- 監査(audit)に関しては、現在のISO14155には規定されていないが、日本の新GCPを考慮し、ICH並の規定を盛り込む方向になった。ただし、「各国の法令で規定されている場合は」と言う但し書きが入る。
(3) 医療機器GCPを医薬品ICH-GCPに調和させるのか、それとも医療機器独自のものをつくるべきなのかについて、各国の意見はまだ分かれている。日本は前者の立場で発言を行ったが、医療機器は医薬品とは違うという欧州側の意見も根強い。また改訂作業を進めると膨大な文書になり、医薬品に比べて中小企業の多い医療機器業界では、実施不可能な基準になりかねないという危惧も出された。フローチャートなどを用いて、できるだけ簡素化し、今後の編集作業を通じて使いやすいものにすることについては意見の一致をみた。なお、治験医師や医療機器の立場から少なくとも治験の手続き面については、医療機器と医薬品の同一基準化をすべきだという意見も強かった。
(4)今後の改訂作業は次のように進めることで合意された。
- '06年1月初: 事務局で今回の討議結果の集約
- 2〜3月 : サブ・グループ・リーダー(FDA、スイス代表他)と事務局による編集作業
- 4月 : ドラフトを各国へ配布、コメントを求める
- 7月10〜11日: TC194総会(シカゴ)で第4回WG会合。ここでCD(コミッティー・ドラフト)化を目指す。
以上のスケジュールから日本としては4月に出てくるドラフトについて国内検討を進め、日本としてのコメントを出す必要がある。今回日本としての意見を事前提出していなかったので、次回はこの作業が必須である。
4.所感
- 各国の法規制からの制約もあり、日本のGCPからみると完全調和までにはかなり隔たりがある。GHTFによる法規制の国際調和が待たれる部分がかなりある。
- '06年4月頃に出されるドラフトについて、日本としての国内検討が重要である。また各当事者が何時何をやらなければならないのか等、基準の理解しやすさ、使いやすさを求めていく必要がある。
<追記>
ワーキング・グループ会合の後、12月9日に特別セッションがあり、「医療機器の臨床試験に関わる法規制の特徴と課題」について、各国からプレゼンテーションと質疑応答が行われた。プレゼンを行ったのは、次の4カ国である。
- 日本:上野がプレゼンを行った。日本のICHをベースとした新医療機器GCPの特徴、ISOとの相違点、医師主導の治験に関する新たな規定、およびPMDA(医薬品医療機器総合機構)の役割・事前相談について紹介した。
- ベルギー:Mr. Bourgeoisからベルギーの医療機器薬制の特徴の紹介があった。安全性評価において、心理的ファクターも考慮することが最近強く規制当局から求められているとのこと。
- ドイツ:Mr. Richardからドイツの医療機器薬制の特徴について紹介があった。EC(IRB、倫理委員会)は基本的には病院単位ではなく、地域ごとに設立され、ドイツ全体で50あるとのこと、一つのECで承認されれば、ドイツ全体での取得と同じ意味になる。
- アメリカ:FDAのDr. Richterが用意したスライドをMedtronicのMs. Westrumが紹介(Dr. Richterは所用で早く帰国)。米国における臨床試験の法規(Parts
50,54&56, Part812:IDE)の紹介があった他、最近の医療機器臨床試験を巡る課題やトピックスの紹介があり、有意義であった。
以上