ISO/TC194 アレキサンドリア会議報告
期日:1998年5月10日ー14日
場所:アレキサンドリア(USA, VA)
参加国:オーストラリア、オーストリア、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、日本、オランダ、ノルウエー、スウエーデン、スイス、英国、米国
参加者数:約70名
日本からの参加者:中村晃忠(国立医薬品食品衛生研究所)、土屋利江(同)、田中憲穂(食品薬品安全センター)、渡邊美香(同)
特記すべきこと:今回の会議の中で特筆すべき事項を以下に列記する。(1)新たな課題(免疫毒性に関するFDAガイダンス: J.J.Langone/USA、組織工学製品に関するASTMのプログラム: P.C.Johnson/USA、異物発癌リスク評価法: A.Nakamura & T.Tsuchiya/Japan)に関する短いレクチャーがあった。(2)これらをISO 10993シリーズにどのように反映させるかが焦点となった。(3)免疫毒性の取り扱い案をまとめるタスクフォースができた (Leader, J.Tinkler/UK)。(4)既存のISO 10993の各パートの利用法(歴史、限界、評価法など)を記述する解説的付属書をつくる方向が確認され、そのフォーマットを考えるタスクフォースができた (Leader, M.Stratmeyer/USA)。(5)ISO-GCP(ISO 14155)とCEN-GCP(EN540)の調和作業がISO/TC194/WG4のイニシャチブで開始されることが決定した。(3), (4)は初日午後に行われたWG15: Strategic approach to biological assessmentで提案され、決定されたものである。
各WGの作業報告
WG1:Systematic approach to biological evaluation and terminology (Convener: J. Anderson)
まず、FDA Draft Guidance for Immunotoxicity Testingについて検討した。「ISO 10993-1のTable 2に新たにimmunotoxicityの項を設けたらどうか」、が米国からの提案であった。免疫毒性の定義問題やsensitization, blood compatibilityの一部との重複すること、その他の意見が出された末、WG15で提案されたImmunotoxicity Task Forceの作業を勘案しながら次回に再度討議することになった。
次に、ISO 10993-1の利用に関するアンケート(ストックホルム会議で合意)が議論された。これはWG15でもより詳細に検討されており、それと併せた形で、アンケート回答者も特定して、実施する方向を探ることになった(WG15報告参照)。
WG2:Degradation aspects related to biological testing (Convener: E.Mueller/USA)
ISO/DIS 10993-9: Framework for the identification and quantification of potential degradation products from medical devicesはコメントに基づいて修正され、FDISとして、賛否投票(コメントなし)にかけることが決定された。ISO/DIS 10993-15: Identification and quantification of degradation products from metals and alloysは修正され、再度DIS投票にかけることになった。
WG4:Clinical investigation (Convener: W. Ziegler /Switzerland)
状況説明:
ISO/IEC JTAG1は、ウイーン合意に基づいて、CEN/TC258(EN540を設定した欧州規格委員会の技術委員会)との協力の下にCENの時間的事情も勘案しながら、ISO/TC194のイニシャチブで、ISO 14155を修正するよう要請した。
決議事項:
1.次の新事業(new work item)を行う:
ISO 14155 の修正(ウイーン合意に基づいた措置)
(適用範囲)
・特に、臨床試験計画の設定方法、市販後調査、ヘルシンキ宣言の修正などを勘案 して修正する。
・ISO 14155とEN 540の調和(ドイツ参加者のコメント:scopeの違いだけだ。)
・他の国の規制要件の検討:それらを満足するようにISO14155を修正する。
(期限)
・可及的に速やかに。
2.医療用具の評価に関係する臨床活動分野での用語に関するtype 3技術報告の作成
(適用範囲)
・臨床に関係する規制やスタンダードの用語・定義を集める。
例、評価、試験的治験、治験、計画、パイロットテスト、市販後調査
(期限)
・1999
サブグループをつくって、今年中にはISO 14155の改定案について議論を始める。
日本のサブグループ・メンバーをDr. Zieglerに知らせる必要あり。
WG5:Cytotoxicity (Convener: M.-F.Harmand/ France)
1)細胞毒性試験の部会では、先ず、各国からよせられているIS0修正案のコメン卜について討議し、修正案を作成した。
2)細胞毒性試験に関しては、各国がそれぞれの国で定めた方法を用いて試験を実施している事から、材料の毒性の強さの比較が困難である。そこで昨年のヨ一ク会議において、日本で使用しているー定の毒性強度をもつ標準材料を用いての評価試験をWG5の国際共同研究として実施する事を堤案し、日本が主導的な役割を担って研究を進める事となった。本年の会議では、共同研究に参加した8カ国15機関から提出されたデータについて田中がとりまとめ、その結果を要約して報告した。その結果、日本の標準材料はあらかじめ示されている毒性強度とほぼー致する事が参加機関の結果より確認された。しかしながら、研究機関の間でその値にバラツキがみられる事から、その原因について十分孝察し、最終報告書を作成する事とした。
3)ラウンドロビン・テスト結果に関する討議において、コロニー法(日)と他の試験法(英、仏、豪など)の違いが問題となり、コロニー法の欧米での経験が少ないので、その試験プロトコルもAnnex(informative)に記述することとなった。他のすべての試験方法のプロトコルとのバランスをどうするかは今後の課題であろう。
WG6:Mutagenicity, carcinogenicity, reproductive toxicity (Convener: A.Poth/ Germany)
ISO/CD 10993-3 の改訂作業の第1回目会合であった。焦点は二つあった。(1)Genotoxicity testsをどのようなセットとするか。ICHのセットとどのように調和させるか;(2) 発癌性試験の取り扱い。
遺伝毒性試験については、ICHの結論を尊重し、次のようなTier Approachを採ることにした:(a)in vitro assay2種(Gene mutation assay & Chromosome abberation assay or Mouse lymphoma assay); (b)どれかで陽性になった場合に、in vivo Micronucleus assay。
発癌性試験については、(a)化学物質または溶出物をサンプルとした試験は、OECDガイドラインにそって実施することとし、それを本文に残すこと;(b)埋植発癌については、Annex (informative)に移して近年の知見も加えることとした。
修正したものは2nd CDとして配布される。
WG8:Irritation and sensitization (Chaired by J. Wahlberg)
10993-10の改訂作業の第1回。
2nd working draftに対するコメントを基に修正を加え、CDとして配布される。主な修正点は以下の通り:(1)表題を、"Tests for irritation and delayed type hypersensitivity"とする;(2)眼粘膜刺激、皮内反応試験を本文にもどし、その他の刺激性試験はinformative annexに置く;(3)試料調製法に関するAnnex Bは削除する(Part 12ができたため)。
日本の感作性試験の評価方法に関する記述をAnnex D.2に追加することが承認された。
5月末に送付済み(別添)
WG9:Effects on blood (Convener: J.Goggins/USA)
スウエーデンから、個々のカテゴリー毎に血液適合性試験方法のどれを優先的に使ったらよいのか、それを明確にして欲しい、との要請があった。討議の末、それは用具によって異なるので、個々のvertical standardで決められるべきである、との結論になった。主にISO/TC150に対し、vertical standard中に試験方法を追加するよう要請する。
WG10:Implantation (Convener: A.Hensten-Pettersen/Norway)
吸収性材料のlocal effectsを評価することを含める方向で、ISO 10993-6の改訂作業を開始することが合意された。
WG11:Ethylene oxide and other sterilization residues (Convener: L.Hecker/USA)
ISO 10993-7の分析法に関する修正作業が、Dr. Berg (Denmark)を中心に続けられる。残留化学物質の許容値決定法に関するDIS 14538の審議は難航し、今回修正したDISを再度投票にかけることとなった。争点は、(1)発癌性のリスク評価方法(許容リスクレベルを10-4のように一律にきめる考えと、case-by-caseの判断で行うという考えの対立);(2)BENEFIT ASSESSMENTの方法を別個に標準化すべきだとする意見;(3)local irritationの許容値決定法が必要とする考え、などがある。
このWGは、ISO/TC198 Sterilization of health care productsとのjoint WGとなっているが、現在のWGの状況が初期のそれから離れてきたので、その関係を見直すことになった。すなわち、
WG11 の名称を"Allowable limits for leachable substances" に変える;
WG11はTC194のWGとし、TC198とは連絡関係を維持する;
DIS 14538の番号をDIS 10993-17として、生物学的評価のシリーズであることを明確にする。
なお、中村は、「ISO 10993-7の利用法についてのAnnex(informative)を追加し、その内容はAAMI/TIRや日本の通知(Japanese TIR)をベースにしたらどうか」、と提案した。
WG12:Sample preparation and reference materials (Convener: D.Marlowe/USA)
CD 10993-8 Guidance on the selection and qualification of reference materials for biological testsの修正を行い、DIS投票にかけることを決定。また、当初はこれをTechinical Reportとしていたが、Standardとすることに変更。
ISO 10993-12 Sample preparation and reference materialsの改訂作業を開始することを決定。関連して、各国の試験機関に対し、生物試験において使用している標準材料があれば、その情報を提供するように求めることとした。連絡先:Donald Marlowe, Hillary Woehrle.
WG14:Material characterization (Convener: J.Lang/UK)
CD 10993-18 の表題を、Chemical characterization of Materialsに変更することにした。これは、1月のRockville/USAでのWG会議で、まず化学的同定に限定してスタンダード化を進めることに合意し、その方向でCDの修正が行われたからである。かなり大幅な修正が行われた(特に、フローチャート)。修正版CDは2ヶ月間の投票にかけ、本年10月のISO/TC150会議(ロンドン)の機会にWG14会議を併催し、そこで討議する。
Physico-chemical, mechanical and morphological characterizationが必要であることを認識し、Technical Report(New Work Item)としてM. van Geffen (Fr), J.Shaw(UK)が推進することになった。
WG15:Strategic approach to biological assessment (Conveners: B.Page/USA, B.Krug/Ger., A.Nakamura/Jpn)
まず、このWGの意義と目的を再確認した。このWGが国際調和の推進やISO 10993シリーズの利用の混乱の防止、新しい課題の整理を目的とするため、その活動をより円滑にするために、コア・グループを正式に作ることとした。コア・グループの構成は、3人のconveners、ISO/TC194議長、CEN/TC206議長(V. Dorman-Smith/Ireland)、Task Force Leadersである。
すなわち、ISO/TC194において新規課題が浮かび上がったとき(今回のImmunotoxicityのような)、コア・グループはその取り扱いを評価するために、場合によっては、Task Forceをつくることを決める。また、リスクアセスメントやマネージメント上の一般理解を向上させるための情報交換を推進する。
この合意に基づいて、以下の二つのTask Forceを作ることを決定した。
TF1: Immunotoxicology (Leader: J. Tinkler/UK) 「免疫毒性」の評価のために、その歴史、試験方法とその意義や限界に関する情報を集め、提供する。
TF2: Format for guidance (M.Stratmeyer/USA) ISO 10993シリーズの適切な利用を促進するために、各パートにガンダンス的付属書を加えることが提案されたが、その付属書にもりこむべきものを整理する。内容は、例えば、スタンダードの技術的、歴史的背景、試験方法の限界、数種の試験方法からの選択、結果の説明、などである。
WG1のアンケートも考慮し、ISO 10993の利用に関するアンケートを改訂し、関連方面に送る準備をすることにした。
New Work Itemとして、以下のものが了承され、近いうちに、NWIPの賛否投票が実施される。
a) ISO 10993-6 1994: Tests for local effects after implantation の改訂
生体吸収性材料の局所反応評価法を追加する。
b) ISO 10993-11 1993: Tests for systemic toxicityの改訂
医療用具の特殊性を加味する。
c) ISO 10993-12 1996: Sample preparation and reference materialsの改訂
他のpartの試料調製に関する要望を反映して改訂する。
d) ISO 14155 Clinical investigationの改訂
WG4の報告を参照のこと。
e) New sub-group for discussing "Terminology in the field of clinical activities"の新設
WG4の報告を参照のこと。
f) Physico-chemical, mechanical and morphological characterization of materials
WG14の新しい仕事として。Project leader: John Shaw (UK)
次回は、1999.5.16 - 21にコペンハーゲン(デンマーク)で開催。