ISO/TC194/WG11/WG15会議報告     1996.11.13 場所:Keybridge Marriot Hotel/Arlington, Verginia 期間:10月21ー23日:WG11    10月24日:WG15 (1)WG11について CONVENER: Larry Hecker (USA) 出席者内訳:オーストリア(1)、ベルギー(1)、デンマーク(1)          フランス(1)、ドイツ(1)、アイルランド(1)、          日本(1)、オランダ(1)、英国(2)、米国(8-10)、          スウエーデン(1) ア) 残留EOについて ・CAPPILARY GAS CHROMATOGRAPHIC METHODをISO 10993-7 ETHYLENE OXIDE RESIDUE のREFREE METHOD とすることについて   (1) R.A.Borders (Kimberly-Clark)が分析法の概要を説明。   (2) Round robin study を米国内で行う(15機関が参加)。   (3) 同時にinternational memberにも参加してほしい。(別紙1参照)     volunteerには、サンプルを11月4日に発送する。 ・SIMULATED EXTRACTION のPILOT STUDYをDr. Duane T. Centola が提案。 (別紙2参照)参加者には、彼がプロトコルを送る。 ・Henrik Berg (Denmark) が、「Part 7に収載された分析方法しか使えないのはおかしい。 ヴァリデートされた分析法ならなにをつかってもよいことにすべきだ。」と述べた。 これについて議論した結果、General criteria/principles of validation of analytical methods for ethylene oxide residue in medical devices をまとめてみることになった。 期限を1997.2.1とし、NAKAMURA, BORDERS, BERGの3人が連絡を取り合って、 原案を作成する。 イ) ISO/CD 14538 METHOD FOR THE ESTABLISHMENT OF ALLOWABLE LIMITS FOR RESIDUES IN MEDICAL DEVICES USING HEALTH BASED RISK ASSESSMENTについて ・DEHP, EO, Hgを例とした演習の結果がDavid Conine (Abbott) から報告された。  目的は、あくまでもCD 14538のプロセスの検討であって、個々の化合物の許容値  を決めることにあるのではないことが了解された。演習の結果は、各評価者間で かなりの差が出た。その原因は、   (1) どの論文のデータに基づいたか?   (2) uncertainty factorをいくつにしたか?   (3) modifying factorの取り方   (4) utilization factorの解釈と数値   (5) feasibility factor, benefit factorの考え方、の違いによる。 ・このような演習の経験をもとにして、CD 14538の改正作業に取りかかった。  議論の焦点は以下の通りであった。  I)プロセスを化合物の毒性評価的部分と用具に依存する曝露評価的部分とに はっきり分ける(二つの文書にするという意味ではなく、項目立てや記述を分ける) かどうか。すなわち、tolerable intake(TI)を求める作業は、化学物質のリスクアセス メントの普通の作業過程であり、科学的作業であるが、そのTIを用具中の 残留許容値へ移す作業はリスクマネージメント的な色彩が強く、ある意味では 政治的であるから、分けたらどうかという意見である。すなわち、 June 27, 1996 版では、  5 Establishment of tolerable intakes (TIs) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・5.1 Device utilization consideration for TI calculation ・ ・ 5.1.1 Catagorization of devices by duration of exposure ・ ・ 5.1.2 Category considerations ・ ・ 5.1.3 Route of entry considerations ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5.2 Collection and evaluation of data 5.3 Set TI for noncancer endpoints 5.3.1 Determination of uncertainty factor 5.3.2 Determination of the modifying factor 5.3.3 Determination of the safety margin 5.4 Set TI for cancer endpoints 6 Device utilization evaluation for selection of body weight and UTF determination のようになっているが、四角で囲った部分は6項と重複するものが多く、 そこへ移した方がよい、という考えである。いいかえると、  ・1 ある特定の物質の許容レベルをuniverse of devices について考える場合には、 修正提案(5.1 を移動させる)が適当であるし、  ・2 ある特定の用具における、ある物質の許容レベルを考える場合には、 June 27 版が分かり易い、といえる。    おおざっぱには、日、米、英、独、蘭のregulatory people は分離派であり、 原案作成者のD. Conine & L. Hecker(Abbott)は非分離派であった。 ヨーロッパの企業からの参加者は、EUでの自社製品を自己認証する際に、 EOやその他の残留化学物質に関してunacceptable risk がないことを保証する 拠り所と考えており、そのためには、ISO 10993-7 "Ethylene oxide sterilization residuals"もCD 14538も使いにくい、もっと分かり易くしてくれ、 という意見が強かった。   II) 次に論争となったのは、utilization factor (UTF)の考えと取り扱いであった。 UTF = Utilization Factor used to take into account the utilization of the device in terms of frequency of use and utilization in conjunction with other medical devices that can be reasonably anticipated to have the same residue.  TIは一人当たりの許容曝露量としてmg/dayで表されるが、これを用具中 (あるいは、用具から)の量(mg/device)に換算して管理することが現実には 必要となる。その場合、当該用具の使用頻度や同時使用用具の数などが考慮される 必要がある。いろいろな議論の末に、UTF を二つに分割するべきであるという 結論に達した。すなわち、  (a) uRF: utilization reduction factor 用具の同時使用の可能性(通常は明確には分からないので、とりあえずの 数値を仮定する。下の文章を参照)に基づいたファクター。用具の種類を問わない。 このファクターは無名数である。許容値を減らす方向に働く。        @ TI (mg/d) = K n mg dev A DI = Σ (ー X ー ) unit=mg/d a→1 dev d        B uRF = TI/DI (unitless)    この点に関して、D. Conine が次のような文章を提案し、6.3.1 の代替文として 採用することに合意した。  6.3.1 Multiple exposure The extent of usage of devices that can release a specific residue in use shall be assessed. If the residue can be released from only a few devices, then the utilization factor (uRF) is one (1). If the residue can be released from many devices, the uRF will be based upon the utilization ofthe device with upper limit of one. If the potential multiple or repeated exposure is not specifically known, 0.2 will be used as the default. Many devices means at least 5% of the devices on the market or at least 5 devices that could release the residue in a single medical procedure. (b) uEF: utilization enhancement factor    個別用具の使用頻度や使用期間に基づく、device-specificなファクター。 例えば、透析は週に3回実施されるので、このuEF は7/3 である。  その上で、        uRF X uEF =< 1  でなければならない、とした。   III) 次に、FEASIBILITY FACTOR & BENEFIT FACTOR について議論した。 さまざまな議論があったが、両ファクターに触れることについては異論はなかった。 ただし、項立てを変えて、    7. Feasibility evaluation FF 8. Benefit evaluation BF  とすることになった。すなわち、「まず技術的に可能かどうかを検討する。 どうしてもダメなら、益の要素を考慮する。」という方向である。  具体的には、"If it is feasible, benefit factor should be one (1). If it is not feasible, benefit factor more than 1 may be considered." とする。   また、オーストリアからの出席者からBFについて以下のような提案があった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ BF ・non-cancer TI ・cancer TI ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ general ・ 10 ・ 1 ・ ・ ・ ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ life ・ ・ ・ ・ saving ・ 100 ・ 100 ・ ・ ・ ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ IV) 興味ある発言  Convener, Dr. Larry Heckerが、ぽろりと興味ある発言をした。誤解でなければ、 以下のような意味と受け取った。 ”本当は、なるべくなら許容値の決定などやりたくない。だから、CD14538 の 最後のページのフローチャートの初めには、Identify or select residueと書いてあるんだ。” (2) WG15: STRATEGIC APPROACH TO BIOLOGICAL EVALUATION  4月のストックホルム会議で新設されたWGであり、ISO/TC194/WG11に併せて 設定された。  Convener: Barry Page (USA) Co-convener: Akitada Nakamura (Japan), Barbara Krug (Germany) 但し、B. Krug は欠席。  参加者:9ケ国(ドイツ、アイルランド、日本、スエーデン、英国、米国、 オランダ、フランス、オーストリア)、33人  このWGのSCOPE を議論するのが会議の目的であった。結果は議事録(別添1) の通りである。  23日(水)の夕に、米国のデレゲート(WG1 convener, J. Anderson; WG15 convener, B. Page; WG11 convener, L. Hecker; FDA person, M. Stratmeyer, Don Marlowe, E. Mueller, R. Kammula, etc. )が集まって、WG15のミッションについての米国のポジション について議論した。その結果が、US DELEGATION PROPOSAL(別添2)である。  また、WG15 secretariat, Nakamura, Gibbons からメモ(別添3、4、5)が 提出された。その他、TC210 のRisk Management との関連の必要性についての 意見があった。  会議には、TC194 Chairman, Dr. W. Mueller-Lierheim (Germany) も出席し、 力の入れ具合がよく分かった。彼の考えは、彼へのインタビュー記事(別添6) から理解できる。  合意されたSCOPE: To develop guidance that will enhance the understanding and explanation of standards created by ISO/TC194    そして、まずは、ISO 10993-1 Annex C Flow Chartに基づいて、各地域での 実際の適用や運用の違いを調べることにした。  多くの人がいうように、WG15の課題は非常に興味深く重要であるが、また、 難しいものである。焦点となる具体的課題を整理する必要があると感ずる。 国立衛生試験所  中村晃忠 --------------------------------------------------------------------------- (解説)この文章は、日本医療器材協会会報のために中村晃忠が書いたものである。  早いもので、国際標準化機構(ISO)・第194技術委員会(TC194)に関わること約8年 になった。おかげで、国際云々というものの断片を少しは実感したような気もするが、人 様に尤もらしく解説する勇気はない。ただ一つだけ、ISO は金科玉条として崇め従う対象 ではなく、問題があれば改訂を要求すべき対象だということを強調したい。どんな基準や 規格も限られた人が限られた期間に作ったものであるから、完全無欠なものなどない。そ ういう眼でながめるべきであろう。もう一点、品質に対する二つの考え方が衝突している ように感じることがある。日本製品の高品質は自他共に認めるところだが、高純度(これ は事実だ)こそ高品質であるという信念があるように見える。他方、必要な品質を論理に 基づいて設定し管理するという方向(ISO 9000)がある。我々にはもっと論理や戦略を構 築する訓練が必要であると感ずる。事実は不可欠だが、事実だけでは異なる価値観を超え ることは出来ない。  さて、抽象的な話はこれくらいにして、残留エチレンオキサイド(EO)に関する ISO 10993-7 の成立経過と、未だにくすぶる問題点について記すことにする。  表1はISO 10993-7 中に規定された許容レベルの要約である。患者一人当たりの1日、 1月、生涯の暴露限度値(mg/day)として規定している。別に、例外事項として眼内レンズ (IOL) や人工肺、透析セットなどの限度値を決めている。表2にはFDA PROPOSALを示 した。許容値は用具1g中の残留EO量(ug)として示されている。これは従来から医療用具 の残留EO管理の拠り所として用いられてきた。日本では、医材協自主基準も含めて、 25ug/gが実質的な管理指導基準値として運用されてきたのはご存じの通りである。ヨーロ ッパでは、国によってまちまちであったが、近年、IARCがEOをGENOTOXIC CARCINOGENであり人の発癌物質と認定したことから、特に消費者(国)を中心に、代 るべきものがあれば原則的に禁止すべきである、という方向にある。このような情勢の中 でISO 10993-7 が出版された。  TC194/WG11では、第1回の会議から一貫して以下の諸点が論争の焦点であった。  (1) 短期間接触の場合の限度値が高すぎないか。例えば、気管チューブに20mgのEO が残留していれば、気管粘膜に強度の炎症が起こることは必至である(FDA 、フランス 参加者):  これに対するWGの大勢意見は、滅菌条件設定の際に、当然、滅菌済み用具の刺激性 試験や細胞毒性試験を行うのであるから、そのような強刺激性の用具は排除されるはずで ある、というものである。  (2) 長期間接触の場合の限度値は数学モデルによる発癌リスクアセスメントから導き出 されたが、そこでは1万人に1人の癌リスクは許容できるとした。しかし、これは甘すぎ る。百万人に1人とすべきである(ヨーロッパの一部):  これに対するWGの大勢意見は、未滅菌用具の感染のリスクを考慮すれば妥当なリス クレベルである、というものである。  (3) 残留EO定量法に模擬的溶出法(simulated extraction)と総含有量定量法(exaggerated extraction)があるが、模擬的溶出法による定量値は溶出条件に依存して変動するから、管 理値として使うのは適切ではない。総含有量定量法を使うべきだ(中村):  これに対するWGの大勢意見は、実際に体内にとりこまれるのは血液などへ溶出した EOである。総含有量では過剰評価になる、というものである。  また、ISO 10993-7 に掲げられた分析方法以外でも使用可能なようにせよ、という要求 も出されている。  (4) ISO 10993-7 では患者が1日に暴露される量として許容値を設定しているが、これ では、メーカーが個々の自社製品の残留EOを管理する場合にどうしたらよいか分からな い。1人の患者に複数のメーカー製の複数の用具が同時に使われるのが普通だろう。ガイ ダンス文書が欲しい(企業参加者):  これに対しては、現在、大きく二つの異なる意見がある。  FDA からの参加者や中村は、以下のような提案をしてきた。すなわち、個々の医療用 具の残留許容値をISO 10993-7 のやり方で算出し、従来のFDA PROPOSALや日本の指導 基準値と比較し、低い法の数値を残留EO管理値としたらどうか、というものである。従 来のやり方では、大きな用具の場合は多量のEO暴露を認めることになり、論理的に正し いとは言えない。一方、医療用具の大きさに無関係に1日暴露量として決めるやり方では、 (1) に示したように、局所刺激のリスクに甘くなる。両方の利点を折衷したらどうか、と いうものである。繰り返し提案にもかかわらず、WGではどういう訳か店晒し状態になっ ている。  もう一つの考え方は、用具の同時使用や使用頻度も考慮して個々の用具に許容暴露量を 割り振るための一般論を準備しようというものである。これが現在審議中のISO/CD 14538Method for the Establishment of Allowable Limits for Residues in Medical Devices Using Health Based Risk Assessment である。ここでは、新たにdevice utilization factor という因子 が導入された。 規制緩和に関する要望の一つとして、日本の残留EO管理指導にISO の考えを導入せよ というものがあると聞いている。単にISO を決ったものとして扱うのではなく、よく理 解した上で、論理の妥当性と共に管理の実務的な難易も考慮して方向が決められることを 期待したい。