
現在、いわゆる3Dプリンターの技術進展に伴い、この技術を利用した医療機器の開発研究が進められつつある。欧米では、既に一部パーツが当該技術で作成された人工股関節が実用化されている。細胞を3Dプリンターにより三次元構築して組織を構築するという研究も進んでいるが、まだ、再生医療分野での実現には越えるべき壁が数多く存在する。
しかしながら、三次元積層造形分野における国際標準化も活動が始まっているため、その医療分野への適用可否はさておき、その情報も収集する価値はあると判断し、これまでに収集した情報を発信する。
TC 261 “Additive manufacturing” (ISOのページへ)
議長:Mr Jörg Lenz
幹事国:ドイツ
国内審議団体:技術研究組合 次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)
設立:2011年
P-member:22ヶ国、O-member: 9ヶ国
発行IS:7、討議案件16
2011年に設立された非常にユニークなTC。ASTM F42と連携しており、WG以外にJoint Group (JG)が存在し、そこでASTMメンバーとISOメンバーとが特定のテーマを協議して原案を作成し、ISOとASTM、それぞれで文書化している。文書化のシステムは異なるものの、最終的に発行される文書は同一となる(文書としてはISO、ASTM両方のマークがつくことになる:ダブルロゴ)。
このシステムの問題は、JGでの討議がWGでの討議よりも限定されたメンバーでの討議となるため、その原案がISOのWGに上がってくるまでは内容がわからず、その後にWG内での討議が紛糾する可能性があることである。また、同一内容の文書であっても、システム上、ASTMの方が早く発行されてしまう可能性があることが挙げられる。一方、版権の問題をどのように解決しているのかは不明ではあるが、発行された標準は完全に国際的に整合したものとなることがメリットである。
現在、ISO側のWGは以下の通りである。
- WG 1 “Terminology”
- WG 2 “Methods, processes and materials”
- WG 3 “Test methods”
- WG 4 “Data and Design”
これら以外に、上述したJGが多数、標準化提案対象の事前協議を行うためのAd-hoc groupが4つ存在している。
ASTMと連携していることから、このTCは年2回総会が行われ、一回は必ず米国で行われることになっている。2016年1月は米国フィラデルフィア近郊で総会が行われたが、猛吹雪のために参加できなくなった参加者が多数出た。そのため、2017年1月の総会は南部のアラバマ州で開催された。2016年7月の総会は東京、お台場で開催された。その総会に参加した際の印象、さらに医療と関連した活動を以下に記す。
お台場での会議は、最初2日間が主にJG会議、後半にISOのWG会議及び総会が行われた。通常のISO/WG会議と異なり、JG会議での議題は当日まで分からない、というよりも、その場で決まるといった印象があった。JG会議の全てが完全に終了する前にASTMの総会が開かれるが、ASTMメンバーのみ参加可能のため、どのような議論が行われているかはその後のISO総会まで分からないという、個人的には少々不透明感を感じる会議であった。
会議の途中でISOとASTMの連携をどのように行っているかを知る講演があったが、そこでの説明は以下の通り。
- Reviewは双方で
- 投票制度が異なるため、新規提案に対しては、事前に調整して、3 – 5人のexpertを各々が出してjoint groupを作り、そこで議論を始める
- 取りまとめた文書提案は恐らくISOに行う模様
- いずれかの団体がその規格案に反対するケースが生じた場合は、一方のみの規格を作るための作業を行うことになるが、このTCをjointとして立ち上げた経緯からそのようなことが起こることは想定していない
- All negatives and commentsはJWGで討議する
- 問題点:発行方法をどうするか等が詳細に決まっていない(初のケースであるため)→しかしすでに三件が発行された(1件が発行待機中、ASTM単独は四つ)
お台場では、AHG会議で韓国メンバーより医療用画像を基にした標準作成提案の玉だしがあった。しかしながら、プレゼンの内容は画像解析、構築、有限要素解析の説明とアウトラインのみであり、目的がまったく不明だった。また、参加者から、このような内容は医師や医療機器メーカーが参加するTCで討議すべきとの反論があり、まずはTC
150と連携して議論を進めることになった。このことを受けて、一旦、韓国提案はWGレベルでの討議に格上げすることになったが、提案者が他のTCとの連携をまったく検討していないことから正式な新規提案成立は難しいと思われた。現在、ISOのHPを閲覧する限りでは、本件は正式に登録されていないようではあるが、WG 4直下のJG 70 "Optimized medical image data"で討議が継続している。これに対抗する形で、三次元画像構築に関して汎用性の高いデータ形式に関する提案を日本から行おうという動きがあり、医用画像を利用した検証も検討すべきかが議論となった。この点に関しては、引き続き国内でも議論が進んでいる。 なお、IECや他の国際団体で作成されている標準との調整や、医療に適用した際の留意事項を挙げるための医療関係者との連携が欠かせないはずだが、提案者がそれらを行っているかは把握できていない。
本件と関連するかどうかは不明だが、気になる動きとしてASTM F42.05 "Materials and Processes"にF42.05.03 "Medical Applications"が設立されたことが挙げられる。HPにはメンバー等の詳細は公開されていないため、具体的な目的やメンバー構成等は未だ不明である。
2018年4月に第11回総会が米国のJohns Hopkins Universityで開催されるが、この大学には三次元積層造形技術を用いたインプラントを研究しているグループが存在していることから、この総会に参加することが予想され、その結果、上記組織の概要が判明する可能性がある。

Last update 2018.03.28
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